Vol. 5 お盆に思う ― ご先祖様へ「ありがとう」を伝える日本の心

  • 梅雨が明け、本格的な夏が訪れると、お盆の季節が近づいてきます。

お盆は、ご先祖様の霊をお迎えし、感謝の気持ちを捧げる日本の大切な年中行事です。お墓参りをしたり、仏壇に手を合わせたり、迎え火や送り火を焚いたりする風景は、日本の夏の風物詩として今も受け継がれています。

しかし、お盆はいつ、どのように始まったのでしょうか。

正式には**「盂蘭盆会(うらぼんえ)」**と呼ばれ、その起源は仏教にあります。

お釈迦様の弟子である目連(もくれん)尊者は、亡くなった母親が餓鬼道で苦しんでいることを知り、お釈迦様に救いを求めました。するとお釈迦様は、

「夏の修行を終えた僧侶たちに食べ物などを供養し、その功徳を母に捧げなさい」

と教えられました。

目連がその教えを実践すると、母親は苦しみから救われます。その喜びのあまり踊ったことが、盆踊りの由来の一つになったとも伝えられています。

この仏教の行事は中国へ伝わり、その後、日本へも伝来しました。日本では飛鳥時代から奈良時代にかけて仏教が広まり、盂蘭盆会も朝廷や大きな寺院で営まれるようになります。

奈良時代には、国家の安泰や祖先の冥福を祈る法要として行われていましたが、やがて平安時代には貴族へ、鎌倉・室町時代には武士や庶民へと広がっていきました。

一方、日本には古くから祖先の霊を家に迎え、感謝を捧げる祖霊信仰がありました。そのため、仏教の盂蘭盆会と日本古来の信仰が自然に結び付き、現在のお盆の姿へと発展していったのです。

つまり、お盆は仏教だけの行事ではなく、日本人が古くから受け継いできた「祖先を敬う心」が形となった、日本ならではの文化なのです。

お盆の時期は地域によって異なりますが、多くの地域では8月13日から16日に行われます。

13日には迎え火を焚き、ご先祖様が迷わず帰って来られるようにお迎えします。

 

きゅうりで作る精霊馬には「一日も早く帰って来てください」という願いが、ナスで作る精霊牛には「たくさんのお土産を持って、ゆっくりお帰りください」という願いが込められています。

 

お墓参りでは墓石を清め、花や線香を供え、仏壇には季節の果物や料理をお供えします。そして16日には送り火を焚き、「また来年もお帰りください」という思いでご先祖様をお送りします。

また、地域によっては灯籠流しや精霊流し、盆踊りなど、それぞれの土地ならではの伝統行事が今も大切に受け継がれています。

万葉集には、お盆そのものを詠んだ歌はありません。しかし、人を思い、命のつながりを大切にする歌は数多く残されています。

私の好きな一人、柿本人麻呂の一首です。

 

■ 山上憶良は、命の尊さをこのように詠んでいます。

銀も 金も玉も 何せむに
勝れる宝 子にしかめやも

「金や銀、宝石がどれほど尊くても、それ以上に尊い宝は子どもである。」

命は何よりも尊く、その命が代々受け継がれてきたからこそ、今の私たちがあります。

 

■ 柿本人麻呂は、亡き妻を深く偲び、次のような歌を残しました。

秋山の 黄葉を茂み 惑ひぬる
妹を求めむ 山道知らずも

秋山の紅葉が深く茂り、愛しい人を探しに行こうにも、その道さえ分からない。」

大切な人を思い続ける気持ちは、千三百年という長い時を経た今も変わることはありません。

 

普段は忙しく過ごしていても、この季節だけは少し立ち止まり、お墓に手を合わせ、家族と語り合い、ご先祖様を思い出す。

そんな時間が、私たち自身の心を穏やかにし、「命はつながっている」ということを静かに教えてくれるように思います。

今年のお盆も、感謝の気持ちを胸に、ご先祖様をお迎えしたいと思います。

 

● 京都・五山送り火に受け継がれる祈り

 

私の住む兵庫県からほど近い京都では、毎年8月16日に「五山送り火」が行われます。

夜の京都を囲む山々に、「大」の字をはじめ、「妙・法」「船形」「左大文字」「鳥居形」の火が次々と灯される光景は、日本の夏を代表する風物詩として広く知られています。

この送り火は、華やかなイベントではなく、お盆の間にそれぞれの家へ帰ってこられたご先祖様の御霊を、再び安らかな世界へお送りするための大切な行事です。

静かな夜空に浮かび上がる炎を見ていると、命は世代を超えて受け継がれ、人と人との絆もまた受け継がれていくのだと感じます。

地域によってお盆の習わしは少しずつ違いますが、「ご先祖様への感謝」と「また来年もお迎えします」という願いは、どこでも共通しているのではないでしょうか。

毎年変わることなく灯される五山の火は、日本人が大切にしてきた祈りの心を、今も静かに伝え続けているように思います。

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